エルメスでも、新たに作られたパリ近郊の近代的な工房に子供達を受け入れている。「ハンタンにあるエルメスのアトリエでは、モンフェルメイユのパブロ・ピカソ中学校の生徒たちを一週間にわたって受け入れた。彼らの目的は、皮革の仕事とは何かを学び、さらに習得するためであった。一週間の素晴らしい体験!」(「エルメスの世界」1994年第2巻)高等教育にも対応がなされており、フランス国立行政学院はもとより、コロンビア大学ビジネススクールなどでも伝統工芸産業に関する授業を行っている。当時のフランスでは、LVMHグループなどによるプレミアム・ブランドのグループ化がすすみつつあり、輸出産業としての贅沢品産業に関する関心が非常に高まっていた。1980年代末に、経済学者のガルブレイスも「勝ち目のない分野で競争して破産するより、フランスは得意とする高級ブランド品の分野でリーダーを目指すべきだ」と指摘している(『ベルナール・アルノーは 語る』)。フランスの嗜好品産業がかつてない規模で世界的に拡大するなかで、デュマのいう国民レベルでの職人教育の徹底は国益に叶うものでもあった。エルメスに限らず、現在のフランスのプレミアム・ブランドの強さの背景には、こうした国家レベルの教育制度や、後に見るように文部省とも連携した若手の才能の発掘を目的とする大掛かりなメセナ活動の整備などが存在するのである。